草木染の魅力
合成染料が開発されて100年余りが経ちましたが、最近、植物染料(天然染料)による染色が再び注目され静かなブームになっています。
この背景としては、一つは、消費者の生活意識が向上し、物質的な豊かさよりも精神的な豊かさ、ゆとりのある生活を楽しみ、自己表現を目指す方向に変化してきていること。二つめは、物づくりに自分から積極的に参加し、自由で個性的な発想で物を創造する意識開発がなされてきたこと。三つめは、ファッションの取り入れ方に変化が見え、時代の風潮に合わせた付和雷同的な大衆ファッション意識が薄れ、物の選択を自己の好みに合わせるように変化してきていること。もちろん、このほかにも様々な要因があると思います。
いずれにしても、合成染料では得ることが出来ない不思議な色彩と調和、色の深さなどを包含した自然回帰への願望と本物指向が芽生えたものであると思います。
|
|
染材の採取
草木染は、自然の中で培われた植物を染料とする染色であり、すべての植物が染材として使用できます。
一般的に草木染で最良の染色をするためには、新鮮な染材を使用することが望ましいのですが、場合によっては採取した植物を一旦乾燥し、保存しておくことにより、いつまでも必要な時に楽しむことが可能となります。
また、染材としての植物は、同一品種でも生育地や植物の成熟度などによって、同一の色素が抽出できないことがあり同じ色の再現が出来ません。逆に言うならば、正確に同じ色に染色できないからこそ面白味があり、時として、目を見張るような素晴らしい色が顕出されることもあるわけです。
さて、実際に染材を採取するにあたって注意しなければならないことがあります。それは、私達が植物を使って染色することは、自然と一体となることであり、自然回帰への願いであると思います。
染材を採取することによって自然環境を破壊するようなこと、例えば、いくら希少価値があるからといって、絶滅寸前の高山植物を採取する、といったことは絶対に行ってはならないことです。でき得れば、日常の生活の中で不用になった植物(茶殻、野菜類、剪定技等)を利用するとか、あるいは、空き地やプランター等を利用して目的とする植物を栽培することも楽しいものです。
以下、容易に栽培できる草木染用植物の栽培方法についていくつかを紹介します。
|
|
栽培植物一覧
茜(あかね)[アカネ科]
生薬名:茜草(せんそう)・茜草根(せんそうこん)
蔓性の多年草で、根は樺黄色で乾燥すると赤黄色を呈し、アカネの名はこれに基づく。
漢方では、この根を「茜草又は茜草根」と称し、腎臓病、喀血・鼻血・血尿等の止血薬、解熱強壮に効あるといい、主として煎剤とする。
根にアントラキノン系の色素であるプソイドプルプリンの配糖体を含み上代では緋の栄色に用いていた。
|
|
西洋茜(せいようあかね)[アカネ科]
葉が六葉であるところから、六葉茜とも呼ばれている。
薬効についてはさだかでないが、根に赤系色素のアリザリンを含んでいる。現在でも、食品の着色剤や草木染の赤系染料として用いられている。
|
|
黄蘖(きはだ)[ミカン科] 生薬名:黄柏(おうばく)
落葉高木で、外皮を剥くと内皮は鮮やかな黄色で、このためキハダ(黄肌)と名づけられている。
漢方では、内皮を乾燥して生薬の黄柏とする。今日でも日本局方方に入っている医薬品の一つで、健胃薬、下痢止として用いられている。
内皮にアルカロイドのベルベリンを含み、このベルベリンは天然に産する唯一の塩基性色素で、古く中国では服色を階級のしるしとし、キハダで染色した黄色を最上位としていた。
|
紫(むらさき)[ムラサキ科] 生薬名:紫根(しこん)
日のあたる原野などに自生する多年草で、根は紫色で太く、初夏に白色の小さい花をつける。
漢方では、根を乾燥して生薬の紫根とし、はれものの排膿、火傷、皮膚の荒れ止めなどに用いる。幕末、華岡青洲が愛用した「紫雲膏」が有名である。
根には、ナフトキノン誘導体のシコニン、アセチルシコニン、多糖類、有機酸などが含まれており、天平時代から紫の染料として用いられた。
|
|
梔子(くちなし)[アカネ科] 生薬名:山梔子(さんしし)
常緑性低木で、花の芳香がジャスミンに似ているため、学名ガーディニア・ジャスミノイデスと呼ばれている。
漢方では、果実を乾燥して生薬の山梔子と称し、消炎、利尿、止血、鎮静などに用いられている。
乾燥した果実はカロチノイド系色素のクロシンを含み、飛鳥時代から黄色の染料として知られている。現在でも、沢庵漬、栗金団などの着色に用いられている。
|
|
鬱金(うこん)[ショウガ秤] 生薬名:鬱金(うこん)
多年草で根は太くて大きく、花穂も大きく晩夏ごろ下方から順に咲く。
同属として、キョウオウ(ハルウコン)、ガジュツ、サンナ、キバナガランタ、バンウコン、シャクシャなど多くの種類がある。
漢方では、根茎を乾燥して生薬の鬱金と称し、吐血、鼻血、血尿などの止血剤、胆汁の分泌を促進する作用があり黄疸症状に用いている。
根茎には黄色素のクルクミンを0.3%含み、平安朝の中期以降には既に知られ、酸性では美しい黄、アルカリ性では赤がかった色になる。
現在でも、カレー粉、沢庵潰の着色剤として用いられている。
|
|
紅花(べにばな)[キク科] 生薬名:紅花(こうか)
2年生草木、茎は40〜120cmで、夏、技端に大型の花を着け、一見アザミ状であり、樺黄色の小管状花を球状に盛り上げて開く。
漢方では、よく乾燥した花弁を煎剤とし、産前産後、腹痛などの婦人病一般に用いている。
紅花の花弁には、黄色と紅色の2種類の色素が一緒に含まれており、黄色の色素をサフィロールイエローと言う。この色素は、花弁を水でもむと溶けて流れでる。紅色色素のカーサミンは水に溶けず、花弁の中にそのままの形で残っている。これを発酵して鮮紅色を得る。
紅花の種子はリノール酸を70%も含み、食用油として使用すると、血液中のコレストロール濃度を低下させ、動脈硬化の予防になる。 |
蓬(よもぎ)[キク科] 生薬名:艾葉(がいよう)
多年草。別名モチグサ(餅草)、日本全国でいたるところに自生している。
地下茎はやや横に這い、群生する。茎は立ち上がり、やや木質化する。葉は大きく裂け、裏面には白い毛を密生する。夏から秋にかけ、茎を高く伸ばし、目立たない花を咲かせる。
特有の香りがあり、春につんだ新芽を茹で、草もちにして食べることもできる。
香りの主成分はシネオール、ツヨン、β-カリオフィレン、ボルネオール、カンファー、脂肪油のパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2などの成分がある。
漢方では、灸につかうもぐさ(艾)は、葉を乾燥させ、裏側の綿毛を採取したものである。葉は、艾葉(がいよう)という生薬で止血作用がある。
6〜7月頃、茎葉を日陰でよく乾燥したものを生薬名・艾葉(がいよう)といいます。肝・脾・腎に働き、体の中から温め、冷痛を止めるので、婦人科にも重要な薬です。外用すると痒みを抑えます。一日量は乾燥葉3〜6gを煎服、外用には適量を使用する。
蓬の茎葉を染色用に利用しますが、季節によって色相が変わり、徐々に茶味が強くなる。熱煎して染色液とする。灰汁で黄から草色を、錫媒染で黄色を染め、また灰汁などで熱煎した液を中和して使うと、アルミや銅媒染で薄青色、鉄媒染で黒味がかった緑色に染まる。 |
|